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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)1647号 判決 1966年4月07日

原告 佐々木興業株式会社

右代表者代表取締役 佐々木進

右訴訟代理人弁護士 中村源造

被告 大沼長清

右訴訟代理人弁護士 堀江覚

右訴訟復代理人弁護士 高橋敏男

主文

被告は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して別紙目録(一)記載の土地を明渡し、昭和三八年三月一六日から右土地明渡ずみに至るまで、月四、四八〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決のうち金員支払の部分については、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言とを求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

原告は、昭和三一年三月二〇日訴外飯沼昌夫から、別紙目録(一)記載の土地を含む東京都板橋区大山東町四四番七宅地五五七坪二合九勺を買受けてその所有権を有するところ、被告は右土地のうち別紙目録(一)記載部分四四坪八合(以下本件土地という)上に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を所有して右土地を占有している。

よって、原告は被告に対し、土地所有権に基づき右建物を収去して右土地を明渡すことおよび本訴状送達の翌日である昭和三八年三月一六日から右明渡ずみに至るまで右土地賃料相当の月四、四八〇円の割合による損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求原因事実をすべて認め、抗弁として次のとおり述べた。

被告は、昭和二四年一二月訴外宮本知遠から本件土地上の建物を買受け、同二五年一月九日右建物の所有権移転登記手続をし、右建物の買受けに際して、本件土地の所有者であった訴外飯沼昌夫との間に、本件土地を、建物所有の目的で契約期間を三〇年、賃料一ヶ月坪一〇円毎年六月および一二月末日に六ヶ月分支払の約定と建物増改築をなすことの承諾のもとに借受け右建物はその後増築の結果別紙目録(二)記載の現況(本件建物)となったものであって、昭和三一年三月二〇日原告の本件土地所有権取得により右土地賃貸借契約における賃貸人の地位は原告に承継された。

原告訴訟代理人は、被告の抗弁に対して、被告がその主張の日に本件建物を買受け、右建物につき所有権移転登記手続をしたことは否認する。被告と訴外飯沼昌夫が本件土地について賃貸借契約を締結したことは知らないと述べ、再抗弁として、

かりに右賃貸借契約が成立し原告の本件土地所有権取得により右契約上の賃貸人の地位を右訴外人から承継したとしても、被告は、昭和二四年一二月訴外宮本知遠から買受けた建物(以下旧建物という)は朽廃のため、昭和三四年一一月にその半分を取毀して、その跡に住宅兼事務所一棟を建築し、昭和三七年一〇月に旧建物の残余を取毀して、その跡に木造モルタル塗二階建居宅一棟を建築したものであって、旧建物が全部取毀された昭和三七年一〇月には旧建物はすでに朽廃していたから、少くとも同日以降被告の主張する右本件土地上の借地権はその後の期間をもって原告に対抗することができなくなった。

かりに旧建物が朽廃していないとしても、旧建物は昭和三四年一一月および同三七年一〇月の建築に際し、その一部および残部が被告によって取毀され、同月中に、その全部が滅失したのであるから、本件土地の借地権残存期間をもって原告に対抗することができないと述べた。

右の主張に対し、被告訴訟代理人は、本件建物は、昭和三四年一〇月当時存した原告主張の旧建物の南側約五坪を除去して、その跡と隣接する空地にまたがり、木造スレート瓦葺二階建事務所一棟建坪八坪、二階八坪を増築し、同三七年九月本件建物に約八坪の二階部分を増築したことはあるが、右各工事は、原告主張の旧建物の改築工事であって、本件建物は改築工事前の旧建物と同一性を有し、滅失又は朽廃したのではないと述べた。

証拠≪省略≫

理由

請求原因事実についてはすべて当事者間に争がない。

それで被告の抗弁について判断すると、≪証拠省略≫によれば、被告は昭和二四年一二月一日本件土地上の建坪一七坪二合五勺の建物を買受け同二五年一月九日その所有権取得を登記した上、その頃本件土地所有者たる飯沼昌夫から右建物の敷地三七坪(本件土地の一部と考えられる)を賃料一ヶ月坪一〇円毎年六月又は一二月末払で賃借したこと、期間および使用の目的につき契約上定めがないが、当時すでに土地上に普通建物の存したことは明らかであるから、普通建物の所有の目的であったと推認され、その存続期間は契約成立の日たる昭和二五年一一月一日より三〇年とされたことが認められるところであるが、包括的に建物の増改築につき承諾があったことについては、被告本人尋問の結果によっては、これを明認し得られず他にこれを認定しうる証拠はない。右建物の敷地たる本件土地は昭和三一年三月二〇日訴外飯沼から原告に売渡されて原告が所有者となったことは当事者間に争のないところであるから、原告は被告と訴外飯沼間の右賃貸借契約上の賃貸人の地位を本件土地所有権取得により承継したものと認めることができる。

然るところ原告は右建物(旧建物)はすでに滅失又は朽廃しているので被告はその後の期間を以て原告に対抗できないと主張する。そこで旧建物が滅失又は朽廃したか否かにつき証拠をみると、旧建物が原告の主張する昭和三七年一〇月には朽廃したとの事実を明認するに足る証拠は存しないが、≪証拠省略≫をそう合すれば、被告が昭和二四年一二月訴外宮本知遠から買受けた旧建物は、木造瓦葺平家居宅建坪一七坪二合五勺であったところ、昭和三四年一〇月に右建物の一部分(約七坪)を取毀して、別棟として木造瓦葺二階建事務所一棟建坪八坪二階八坪を新築し、昭和三七年九月に旧建物残部分のうち一部分を取毀して、二階部分全部および階下部分約二坪五合をそれぞれ増築して、木造二階建居宅一階一七坪、二階一三坪とし、右二階部分増築のため通柱を五本入れ、屋根は全部取毀し、梁を取替え、朽廃した柱は入れ替えたこと、および階下部分について外部はモルタル塗にてすべて覆い、ガラス窓、出入口扉等外廻り建具はすべて新しくし、内部についても大部分大壁作りで柱の部分を覆い隠し、床板、天井も新しい材料を使用した事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定した諸事実と鑑定人石川市太郎の鑑定の結果とをそう合すれば、昭和三四年一〇月に新築した一階八坪二階八坪の建物は旧建物には関係のない新設の建物であるし、昭和三九年九月に建築した二階は全く新設の建物であり一階部分は残存の旧建物一階の当時の現況を甚しく改変して残存部分を認識できない程度に改めたことは明らかであって、本件建物の内部に旧建物の材料が若干残っているとしてもこれを以て旧建物の一部が右改変後に存在するとは到底認められず、少くとも旧建物と本件建物との間には同一性ありということはできないから右三九年九月には旧建物全部が滅失したものと認めるのが相当である。

そうだとすれば被告は先に認定した賃貸借契約についての昭和三七年九月以降の期間を原告に対抗できず右契約はおそくとも同月末日を以て終了したものといわなければならず被告は契約終了後は本件土地を権原なく占有する者として当事者間に争のない本件土地賃料相当額一ヶ月金四四八〇円の割合による損害を支払う義務がある。

よって被告に対し本件建物を収去し、本件土地を明渡すと共に賃貸借契約終了の後である昭和三八年三月一六日(本件訴状送達の日の翌日)から右土地明渡済に至るまで一ヶ月金四四八〇円の割合による損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを正当として認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項を適用して金員支払を求める部分についてのみこれを附することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒木大任)

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